教材

2023年08月10日

先日行った教材研究勉強会で紹介した教材(絶版含む)で評価が高かったもの

先日、私が現在所属している日本語教育機関で「教材研究勉強会」が行われることになり、私が講師としてその勉強会を運営する運びとなりました。

で、先日、その勉強会が2日(1回3時間)にわたって行われました。

内容はというと、

1 教材研究をする人はどんな状況や立場なのか?

2 教材研究のポイントや見るべき点は何か?

3 私が今までどんな教材を研究し、選んできたか?

4 教材研究そする上で有効な作業とはどんなものか?

5 実際に私が教材研究として初級教材を比較検討したら、どんな結果になるのか?

などなど。

参加された先生方には喜んでいただけたようで、私としてもお役に立てて嬉しいです。

上記の3の私の今まで扱ってきた教材を全部とは言わないまでもたくさんの紙の教材を持っていく必要があったので、キャリーバッグをパンパンにして行ったのでめっちゃ重かったです。

もちろん学校にも色々と教材はあるのですが、あまり数は多くないし、私が所有している既に絶版になったものもあったので、そういうことになったわけです。

その中で、私が紹介したり研究したりしたもので先生方から評価が高かったものを、今回このエントリで紹介していこうと思います。


☆☆☆☆☆☆☆


まずは、文法編。

1 短期集中 初級日本語文法総まとめポイント20




です。

私が以前働いていたのは、日本語学校で大学受験をしようとしたんだけど残念ながら失敗してしまった留学生があと1年頑張る、いわば予備校のようなコースでした。

そのため、本当に日本中から留学生が来ることになり、ただでさえ同じ学校で学んでいても抜け落ち部分が一致しないのに、それが学校もバラバラとなると、そのバラツキはハンパないです。

そこで、初級文法を網羅的に扱っているこの問題集を使うことによって、各個人の抜け落ちを把握するわけです。

その上で、彼らにとって必要な説明をしたり、練習をさせたりできるようになるわけです。

この教材は、使ったことがある先生もいらっしゃって、非常に使いやすかったし教育効果も高かったっておっしゃってました。


2 日本語運用力養成問題集 初中級用②




です。

この問題集については、こちらのエントリをどうぞ。



この教材については、先生方が「設問が良問なのはもちろん、学生が1つの文法項目がどこまでできているかを把握するツールとしても有効」と言っていました。


そして、漢字編。

3 漢字ビギナーズ





です。

この教材についても、こちらのエントリをどうぞ。



そして、次にご崩壊するのが、こちら。

4 にほんご漢字トレーニング




これ、めっちゃ評判良かったです。

この教材についても、過去エントリがあります。



で、どう評判が良かったのかというと、一言で書くと「様々なアプローチの問題があり、楽しんで効果的に漢字の習得ができそうだ」というものでした。

参加されたほぼ100%の先生が評価してくれました。


それから、読解編。

5 日本語総まとめ問題集 読解編




これも、絶版なんですけどね・・・

以前の私のエントリ



を見て、ご参加の先生の1人は当時、購入されたそうです。

因みにこちらのエントリに書いた教材作りは全く進んでません・・・


最後に、今までのエントリには出てきておらず、今回初出の教材です。

初級の総合教材の、

6 初級日本語

初級 日本語[新装改訂版]上(CD付)
東京外国語大学留学生日本語教育センター



初級 日本語[新装改訂版]下
東京外国語大学留学生日本語教育センター




です。

冒頭に書いた5の初級教材の比較検討で、私がほぼ使ったことがない3つの初級総合教材を研究したのですが、その中の1つです。

私は勉強会の1ヶ月以上前から3つの教材研究をしていたのですが、思っていた以上に進まず、ぶっちゃけ前半しか検討できなかったっていう・・・

3つの教材というのは、この初級日本語とみんなの日本語、もう1つは初級日本語とはある意味非常に対極に位置するものでした。

先生方もその対照性に驚いていたご様子。

また、上記の2の教材研究のポイントについて、3つの教材の比較で非常に具体的にイメージできるようになったみたい。

それと、こちらの初級日本語が本当に賢い人が緻密に考えて作られているってことがよく理解していただけたようで、何人かの先生が「私、この教科書買おうかな。」って言ってはりました。



で、私が考える教材研究のポイント(冒頭の2にあたること)について、何かお知りになりたいとの声などがありましたら、また改めてエントリに書きたいと考えています。


ほな、さいなら!



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2021年07月13日

圧倒的に価値が高い昔の日本語教材

ここ最近、リアル書店で古い昔の教材を見つけてパラパラ読んでちょっといいなと思っては買うコレクターのようになってますが、先日も書店で非常に価値が高いって思った日本語教材があったので、シェアします。

こちらの

日本語 中級Ⅰ 東海大学留学生教育センター 編

日本語 中級Ⅰ 東海大学留学生教育センター


です。右が本文で、左が練習帳になってます。

ご存知の方いますかね? 

私は全然この教材の存在は知りませんでした。

私がいた学校は比較的蔵書が多い学校だったんですが、この本はありませんでした。

やっぱリアル書店(厳密に書くと、私が発見したのは日本語教育専門の書店)っていいですよね。だって、私はこの教科書の存在を知らなかったので、そうするとAmazonなどのネット販売では探せませんからね。

 
で、この本を読んでみた結果、圧倒的に価値が高い教材だと私は考えました。

まずこれについても、ザックリ2つに分けて考えました。

まず1つ目は、希少価値です。

この本をネットで検索したところ、Amazonにも楽天市場にもメルカリにもネットオフ(ブックオフのネット店舗)にもありませんでした。

そこで、大阪市内の大型書店と言われる数軒で探してみましたが、やはりありませんでした。

特にリアル書店では新刊が次から次へと出版されるので売れ残ってる昔の教材をずっと置いておく余裕がないのに加え、消費者サイドも新しい教材や新しい情報を古いものより高く見積もる人もいたりするので、昔の教材はなかったりするんでしょうね。

因みに、新旧の情報の価値に関する私のスタンスはこちら。




1年前までは私がよくネタにしてる「日本語初歩」があったりしましたが、今回探した感じではそっちも見かけなくなってました。 

こちらの「日本語 中級Ⅰ」の本文のほうは、第1版第1刷発行が1979年(!)・第17刷が2008年で、練習帳のほうは、初版が1984年・初版第10刷が2003年となってます。

売ってる場所がないことやこれらの数字から、私はもう絶版になってるんじゃないかと考えています。

っていうことは、現在日本に存在しているこの教材自体の数は非常に少ない可能性が高いので、非常に希少価値が高いものだと考えられます。

これに関しては、こちらのエントリも。




次に大きく見て価値が高いのは、教材としての価値です。 

まず1つ目の価値は

ほぼ生教材

ってこと。

最近の在日外国人留学生の日本語学習の目的が何かってことは、最近現場から離れているので私はよく分かっていませんが、この教材に関しては「大学進学を目ざしている留学生に必要で役に立ち、かつ一般の日本語学習者にも使える教科書」を作ろうとしたということです。

なので内容的には、自然・生活・社会・思想・文化・科学などが扱われています。

特筆すべきは本文がほぼ生教材で、実際に本文のテキストの冒頭には、

 ここにのせた文章の大半は、国語教科書その他の出版物から採った生の日本語文であるが、この段階での学習者に教えるにはまだ早すぎると思われる語句・表現・表記は、著者の了承を得て書きあらためた。

とあります。

もうね、私は常々中級以上の教科書についていかがなものかと思ってることがあって、それは本文が

・文型を入れることありき

・活動をさせることありき


で書かれてることが多いってこと。

つまり、学習者に入れたい文型やさせたい活動があり、それを前提として本文が書かれてるってことですよね。

私は、それって語学教育として最もやってはいけないことじゃないかと考えています。

あくまで、語彙も文系も活動も本文を理解するためのものであって、それが自己目的化してはいけないんですよね。

その辺り、この教科書はこのことを良く理解してる著者に書かれてるんだなって印象。

まあ場合によっては本文なんて読む必要ないってケースもあるかもしれませんが、こちらの教科書は大学進学希望者向けなので、文章を読まないなんてあり得ません。


次に

汎用性が高い

ってことが挙げられます。

ここ最近の日本語教材を見ていて受ける印象は、中途半端に細分化されてきてるってこと。

例えば、ビジネス系の教材では全体最適的に一般企業の営業職や事務職が想定されていて構成されてますが、その企業が総合商社なのかメーカーなのかによって必要な日本語って変わってきます。

なので、最大公約数的な場面設定にならざるを得ず、ビミョーに学習者の置かれた状況とフィットしないのが今までだったような気がします。

かといって現在のように、例えばメーカーであれば自動車メーカーって設定にした教材を使うと、医薬品メーカーでは使えないっていう。

教科書の内容を細分化すればするほど、その設定にフィットしない人が出てくるのは当然のこと。

まあこれは、日本語教材の出版社が避けられないジレンマに陥ってるってことなんですかね。

ところが、この教材は(現在の学習者にフィットするかは別にして)「大学にしろ大学院にしろ専門学校にしろ、進学するんならこの程度の本文が読めて知識や教養も積み重ねておかないとダメでしょ!」って言い切ってしまえるくらい、汎用性が高いです。

前述したある程度のジャンル分けはあるにしても、細分化なんてしてません。

このことに関しては、賛否両論出てくるのかも。


3つ目は

お膳立てされすぎてない

ってこと。

こちらをごらんください。

日本語 中級Ⅰ 練習帳 文型



練習帳の、いわゆる文型部分です。

例文しか書いてません。

これ読んでるあなた、これで授業できます?

私の感覚では、1つの文型につき15分〜20分なんですけど。

これ、文型の意味も接続もポイントも書いてある、私の中でお膳立てされた教科書しか使ってない人にとっては苦しいのでは?


ところで、以前私が教務で上級のレベル担当だった時に、全部書いてある教科書を導入した時のこと。

その教科書で行う授業を担当することになった超ベテラン先輩教師に、「これ、意味も接続も教科書に書いてあるんだから、私は授業中にそんなこと説明しなくていいわよね?」って言われたので、「それでお願いします。」と申し上げました。

私はこういう教材は基本独学用と考えているのですが、こういった説明が省ければ時短授業が可能になるかなと思い採用したわけです。

ただ、私はこれはこれで超ムズイって思います。

なぜなら、そうなると教科書に載っていないことを教えないといけなくなるから。

実際、そのベテラン先輩教師のその教科書の授業を見せていただいた時に、教科書には記載されていないポイントなどを提示されてました。


一方、何も説明が書いてない教科書の方が、最初は本当に大変だと思いますが「自分のアタマで考える」ことになるので、中長期的に考えるとそうでない教科書を使ってる教師よりはやく成長できます。

説明を鵜呑みにするとコワイ教材もなきにしもあらずですし。


最後はこれ。

練習問題が本質的 

ってこと。

時々、教科書の中には「この練習や問題をさせて、何の意味があるんだろう?」ってものが載ってるものがあります。

そういうことをやっても、理解や定着につながらないのでは?って印象を受けたりします。

でも、この教科書の問題はすごい!

例えば、この問題。

日本語 中級Ⅰ 練習帳 さえ こそ



「さえ」と「こそ」・・・

この問題って、多分「さえ」も「こそ」も「強調」ってワードを用いて教えられちゃった学習者は間違えるでしょうね。

次はこちら。

日本語 中級Ⅰ 練習帳 受身 可能 尊敬



これも、学習者はよく混同してます。
 
以前他の問題集で、この「受身」、「可能」、「尊敬」に加えて「自発」も含めて判断させる問題をさせたことがありますが、混乱の極みでしたね。

最後にこちら。

日本語 中級Ⅰ 練習帳 べき



この問題は、私にはない発想でした。

私はどちらかというと、「〜ほうがいい」、「〜なければならない」、「〜べきだ」の違いにフォーカスしてましたが、伝えたいメッセージが異なるとはいえ言い換え可能って場合もあるってこの問題で理解しました。


ただ、こちらの練習帳には本文の内容把握の問題もあるのですが、数が少なく若干ワンパターンなので、私だったら内容把握のための色々なタイプの問題を作って学習者にさせるかなって思います。


冒頭に書いたように、Amazonなどのネット書店にはおそらく置いてないのでリンクは貼りませんが、
本文は発行所が東海大学出版会、練習帳が凡人社になってるので、ご興味がおありの方は問い合わせてみてはいかがでしょうか?


ほな、さいなら!


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2020年09月06日

日本語の教科書を作ってる出版社に迫ってきているピンチ

昨日の対談で、日本語の教科書などを作っている出版社の話にちょっとなったんですけど、その時に何か引っかかっていて、今日その理由が分かったので書いてみます。

現在の状況を見ると、コロナ禍による直接的かつ短期的な外国人留学生の減少による売上減と思われるかもしれませんが、今回私が考えているのはもっと中長期的な原因によるものです。


☆☆☆☆☆☆☆


1 パイの奪い合いが加速

私の自宅から最も近い書店が丸善ジュンク堂書店なんですが、日本語コーナーに行くと一時期では考えられなかったほどたくさんの教科書が陳列されています。

特に初級。

それに、JLPT対策問題集なども加えれば、夥しい数の教材があるんですよね。

この状況って、パイを増やすっていう発想ではなく、限られたパイを奪い合うって発想です。

でも経済学を少しでも学んだ方なら分かると思うんですが、過当競争が発生し、結果的に生き残れるのは上位の社数でいうと1社か2社くらいなんです。

そういえば、日本語の教材を作ってる出版社のシェアってどうなってるんでしょうね?

ご存知の方、良かったら教えてください。

この状況って、個人で独学で日本語を学んでいる学習者も、どの教科書を選んでいいか分かりませんよね?

それに加えて、保守的な日本語学校が今まで使い慣れているメイン教材を変える可能性は低い上に、仮に変えたとしてもそこには多大な(主に労力の)コストが発生します。 

私はほとんど使ったことがないのでなんとも言えないのですが、例えば「みんなの日本語」のように広く長く使われてきた教科書にはそれなりの理由があると思うし、逆にいくら作成者が「良い教科書です!」って力説してもあまり使われていないっていうのにもなんらかの理由があります。

なので、出版社側がいくら新しい教科書を出版しても、なかなか売上に直結しないっていうのが今の状況なんじゃないかなと。


2 日本への留学生の減少の可能性

今回の新型コロナで、世界中の人の考え方がパラダイムシフトしていっていると言っても過言ではないでしょう。

特に、働き方と教育。

コロナ前までは移動に制限がなかったから比較的自由に移動ができていましたが、こんな状況になると「果たしてわざわざその場所に行かないといけないの?」って疑問が湧いてきています。

日本語学習も例外ではありません。

「純粋に日本語が学びたいとしても、わざわざ日本に行かなくても学習できるよね」って思う人は増えているんじゃないでしょうか?

というか、今までは純粋に日本語が学びたいから日本に留学している人より、日本の大学に入りたい、日本の企業に就職したい、日本でバイトがしたい、といった外的要因で日本に来る人が多かったのが本当のところだと思いますが、そういう人たちの考え方もコロナ禍で変化してきている可能性も高いのでは?

そのあたりの事情も、私は今までこのブログで書いてきています。

やはり中長期的に考えると、日本への留学希望者が減る予測は容易にできても増える予測は難しいかなと。

そうなると、日本国内における日本語教材の売り上げは低下する可能性が高くなります。


3 Kindle化の遅れ

1や2のような状況が予想される中、パイを増やすには海外での日本語教材の売り上げ増加を目指すのが妥当なところだろう、と私は考えます。

Kindleが一般的になるひと昔前であれば、その国の大都市の大型の書店に行かなければ日本語の教科書が手に入らないって状況は普通でした。

でも今は、わざわざそんなことをしなくても教科書がKindle化されていれば、家に居ながらにして日本語の教科書が手に入れられます。

ところが、日本語の教科書ってなかなかKindleにならないんですよね。

一応Kindleになってるものもあることはありますが、ごく一部っていう印象。

これ、なんで?

自宅から大都市に移動し、大型書店で紙の教科書を購入して持って帰るって前時代的です。

さらにその紙の教科書が大きくて重かったりしたら最悪です。

パイを増やしたいのであれば、国外の日本語学習者が手に入れやすい教科書を作ったほうがいいです。


4 日本語学習動機の多様化&ピンポイント化が進む

私は、これが最も大きな要因じゃないかと考えています。

今までこのブログでも、日本語学習の動機が個人の趣味になって行くんじゃないかと散々書いてきました。

ただ、今はそれに加えて、技能実習生、特定技能実習生、ビジネスパーソンの増加もそれに拍車をかけるんじゃないかと思い始めています。

これは、以前ビジネスパーソンに日本語を教えた時に、市販の教科書でフィットするものが全く無いと気づいたことがきっかけ。

これはなぜかというと、ビジネス日本語の教科書であっても全体最適的で、かつ外国人が接するのが全て日本人っていう設定だから。

(教科書作成者が考える)平均的な会議で発言する場面や、電話対応などが設定されており、ちょっとでも業種や職種が異なると全く使えないってことなんです。

さらにビジネス日本語を謳っている教科書って待遇表現がメインで扱われていて一見汎用性が高いように思えますが、実は現場では丁寧体(〜です、〜ます)でOKってところも少なからずあったりしますし。

おまけに、今の時代日本企業だからといって、教科書の登場人物の外国人以外全員日本人って状況も考えにくい。

なので例えば、特定技能実習生の「食品加工会社で働く人」が必要とする日本語の教科書って、市販されてないんです。

かといって、出版社である以上ある程度売り上げ部数が確保される必要があるため、そういう教科書を作るインセンティブもなかなか働きません。

こう考えて来ると、ピンポイントの需要がある教科書については、出版社が会議で意思決定して作成していくよりも個人でササッと作成してnoteとかで販売したほうが早いかもしれませんね。


☆☆☆☆☆☆☆


従来は日本語学習者の学習動機も割と画一的で、最大公約数的に必要な文法項目を盛り込んでおけばそれなりに成果はあったかもしれませんが、マーケットが縮小しつつあり学習の多様化&ピンポイント化が進んで行く局面では、新しい発想に転換できないとピンチは免れないんじゃないかと思います。

こういうことが既に分かっている出版社の方には釈迦に説法だったかもしれませんが、もしそういう気づきを持ってない会社の方には危機感を持っていただけたらなと。

ピンチなのは日本語学校だけじゃないってことですかね。


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2020年09月01日

日本文学が学びたい学習者にもってこいの初級教材「日本語初歩」

日本語初歩については、過去エントリでも色々書いてきました。







ライブ配信動画でも言及してますし。




さて、 こないだのエントリでもお伝えしたように、



ここ最近akkyは、良い読解教材を見つけるべく青空文庫を頻繁に読んでいます。 


その中でも、ゆくゆくは小説のような「行間を読むスキル」が必要な読み物も扱っていきたいと考えているんですが、最初は事実文やエッセイのようなものを取り上げたいと思ってるので、そういうものを優先的に読んでます。

それで気づいたことが1つ。

それは何かというと、

小説のようなフィクションでなくても「人がある」って表現が頻繁に出てくる

ってこと。 


例を挙げていきます。


芥川龍之介 「文章と言葉と」

 僕に「文章に凝りすぎる。さう凝るな」といふ友人がある。


水上滝太郎 「大人の眼と子供の眼」

子供のいたずらと知って、すまして通り過ぎるのもあり、笑って行くのもあるが、中にはおあいそに礼をかえすのも、またうっかり誘われて本気で手をこめかみに上げるのもあった。


柳田國男 「日本の伝説」

 日本は伝説の驚くほど多い国であります。以前はそれをよく覚えていて、話して聴かせようとする人がどの土地にも、五人も十人も有りました。


いかがでしょうか? 

一応、数少ない児童書の小説以外の分野だけでもこんなにあるんですよね。

いわんや、他の分野においてをや!ってところでしょうか。


私は高校時代に明治の文豪のいわゆる純文学をよく読んでいたのですが、当時は「人がいる」なのか「人がある」なのかは全く意識してなかったのですが、多分そういう作品の中にも「人がある」って表現は多かったんじゃないかと推察しています。

さらに私が好きなブロガー・ちきりんさんも、そのブログやtweetで「こういう人もある」って書き方をよくしてらっしゃいます。

また、文脈は非常に限られますが「私というものがありながら」って日本語表現も、かすかに存在してますし。


そこで、「日本語初歩」です。

って書かれても、日本語初歩を使ったことがない人には、意味がサッパリ分かんないと思うのでご説明します。

実は、この日本語初歩の24課では、堂々と「人がある」って表現が取り上げられているんです!

こんな感じ。

日本語初歩 24課


当時は「なんでわざわざこんな古い表現を取り上げて掲載してるんだろ?」って疑問でしかありませんでしたが、今考えるとすごいなと。

この教科書を作成された方って、どういう意図でこれを取り上げたのか聞いてみたい気がします。

 
因みに、この課は「〜んです」も入ってきてますね。


私は今まで、中級以上であれば学習者の学習目的によって使用教材を変えればいいけど、初級はとりあえずどんな学習者でも教材による違いはほとんどないだろうと考えていました。

しかし、「人がある」って表現はおそらく中級以上の教科書では取り上げられないため、この表現が初級教材に存在しているかどうかは、日本文学を学びたいと思っている学習者にとっては非常に影響が大きいのではないか、つまり初級教材でも学習者の目的によっては向き不向きがあるのではないか、っていうふうに認識が変わってきています。

それと同時に、日本語教材の実用性が高ければ高いほど、汎用性が低くなるよねってことも実感しているんですが、これはまた別エントリで。


あ、日本語初歩がどんな教科書なのかご興味ある人もいるかもしれないんで、一応貼っておきます。


Amazon

日本語初歩
凡人社
1985-01T




楽天市場

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2020年08月12日

タスクシラバスやcan-do statementの教科書に上級レベルのものがない理由

みなさん、書店の日本語コーネーにいて気づいたことありませんか?

タイトル通りですが、タスクシラバスやcan-do statementに基づいて作られてる日本語の教科書に、上級レベルのものが無いってことにです。

まあテキスト名は特に書きませんが、代表的なアレとアレのシリーズです。

今2つのシリーズを思い浮かべた人、多分それで当たってます。


で、そういう教科書に関して、私が知らないだけなのかもしれませんが、初級から中級までは出ているのに「上級」レベルの教科書が出るという動きがありません。

本当は着々と、その教科書の上級版を出すための準備が進められているのかもしれませんが。

ただ、中級の教科書はまあまあ以前に出ているのに、いつまでたっても上級の教科書が出版されないのは事実。

そこで、今回はタスクシラバスやcan-do statement系のシリーズで上級の教科書が刊行されない理由を推測してみることにしました。

私はその理由が3つあると考えます。

結論から書くと、


1 最初から上級の教科書を作るという発想が無かった

2 バックキャスティング思考ではなくフォアキャスティング思考で教科書を作った

3 上級レベルのものを作ろうにも作れない何らかの事情がある


ってところではないかと。 

私は個人的に2と3のミックスなんじゃないかと睨んでいます。

2は結構当たっていると考えていて、その根拠は

どちらのシリーズも初級から初中級、中級へ、という流れで作られたから

です。 


これ、今後もずっと上級の教科書は作られないんですかね?

私の個人的な意見では、特にそれでも問題無いです。

が、「私はタスクシラバスで上級レベルも学びたいです!」って学習者がいたら、対応できませんよね?それは問題では?


とは書いたものの、現実問題としてタスクシラバスを上級に適応するのは難しそう。

例えば、大学進学希望の学習者について書くと、おそらく「志望理由書が書けるようになろう」ってタスクを設定したとしても、その学習者の志望学部や志望大学によって内容がマチマチになるため、1つの教科書でそれに対応するのは難しい。

また、(これは学校側に問題がありますが)実際のところ学部進学希望者と大学院進学希望者、あるいは専門学校進学希望者が混在してたりするので、上級クラスの在籍者には共通項がそもそも少なかったりしますしね。


どうですかね?

どこかの出版社、タスクシラバスの上級の教科書出しませんかね?

 
ほな、さいなら!


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